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  第6回 東京大学情報理工学系研究科教授 竹内郁雄氏            


産学連携レポート第6回は東京大学情報理工学系研究科、東京工業大学情報理工学研究科及び国立情報学研究所の3者による『情報理工実践プログラム』について東京大学情報理工学系研究科 竹内郁雄教授にお話を伺いました。

■『情報理工実践プログラム』実施の経緯はどのようなものですか?

 『情報理工実践プログラム』は「開発統率力を備え、世界に発信できるソフトウェアの創造ができる人材」を育成するためのプログラムで、文部科学省の「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」に応募して、採択されたものです。
 文部科学省の「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」は、経済界、特にソフトウェア産業界からの「採用した学生・大学院生に実践力がなく、将来のソフトウェア産業界を背負って立つ人材が不足している」という危機意識と、そこから発生する「大学でそのあたりの教育にも力を入れてもらいたい」という強い要請から立ち上がったという経緯があります。
 東京大学としては、ここ秋葉原で先端的なIT人材を育成したいと考えていたこともあり、先に挙げた社会的要請を踏まえ、産業界が求める開発統制力に加えて,ソフトウェア創造力を有する人材の育成プログラムを提案し、採択されました。先導的ITスペシャリストの定義に「創造」を明確に盛り込んだのは東京大学グループのみでした。



■このプログラムは東京大学、東京工業大学、国立情報学研究所との共同プロジェクトになっていますが、この3者になった経緯と、それぞれの役割を教えてください。

 東京工業大学との連携は、地理的な距離が近いということと、東工大がソフトウェア工学の基礎教育プログラムに関して定評があることが大きな理由になっています。地理的な近さは意外と大事で、顔と顔をあわせて講義を行うことが容易です。実際、秋葉原での講義には、アクセスもよいので、東工大の学生に気軽に来て貰いました。帰りには思う存分ITパーツなどをみて回っていたようです。また、大学生同士仲良くなって就職活動の情報交換なども盛んに行っていたようです。
 国立情報学研究所との連携は、同研究所にソフトウェア工学面の教育を行える人材と最先端の開発ツールがあることが大きな理由になっています。しかも、これらのツールを使いこなすための教材プログラム(TopSE)が開発されているので、当プログラムではこれを現場経験のない学生向けにブレイクダウンしたものを使って開発力育成の部分を担ってもらっています。  情報理工実践プログラムの3つの課程のうち、「実践基礎コース(基礎力)」を東京工業大学が、「先端スキル開発コース(開発力)を情報学研究所が、そして「ソフトウェア開発実践コース(創造力)を東京大学というように、それぞれの得意分野を3者が分担企画しました。



■情報理工実践プログラムとはどのようなものですか

 図に示したように、このプログラムでは、「情報理工実践課程」を経て「情報理工実践工房」に進み、先導的ITスペシャリストを育成します。
 「情報理工実践課程」はソフト基礎研究が盛んであり実績も十分な東京工業大学が企画しました。東京大学でもこれにそった形でソフト開発の基礎力を養います。
  次に「情報理工実践工房」に移ります。この「工房」というネーミングには思い入れがあり、「工房」すなわち「ものを創り出す場」をイメージしています。
  「実践工房」では、まず、「先端スキル開発コース」として、国立情学研究所で開発されたTopSEを現場経験のない学生用にブレイクダウンした教材を使い、ソフトウェア開発の全工程に必要な技術を身に付けさせ、さらに、最新のソフトウェア工学のツールを使いこなせるようします。 先端スキル開発コースでは秋葉原ダイビルに両大学の学生が一堂に会し、春・夏休み中に集中講義という形で行われます。休み中の集中講義とするのは、ソフトウェア開発を専門にしない学生にも履修して欲しいという意図があるからです。教材が素晴らしいのはもちろん、教員も手厚く配置され(学生4・5名/教員1人)、充実したプログラムとなっています。
 そして最後に実践編として「ソフトウェア開発実践コース」の演習があります。
  東京工業大学のソフトウェア開発実践コースでは、絵心・発想力のある多摩美術大学の学生を発注者、ソフト開発力がある東京工業大学の学生をソフト開発会社に見立て、ソフト開発プロジェクトを体験します。ここでは、ソフト開発に関わる上での発注者とのコミュニケーション能力を磨くこととなります。
 東京大学のソフトウェア開発実践コースでは、学生、教員及び企業から提案されたプロジェクトの中から希望するプロジェクトを選び、2名以上のグループで実際に使えるソフトウェアを真剣に開発します。  2名以上という制約があるのは、工程管理、プレゼンテーション、ブレーンストーミング等、ソフトウェアを創りこんでいく様々な場面でコミュニケーション能力を養成したいからです。 単位数の割にはかなりの時間と労力をかけることになりますが、学生たちのソフトウェア創造力を鍛えることとなり、実際、起業にまで発展したプロジェクトもあります。


■海外研修の成果

 東京大学では2008年3月に「国際的に通用するアピール力、議論力」養成のため、「西海岸武者修行」と称し、アメリカ西海岸にある大学・企業(スタンフォード大学やサンマイクロシステムズ等)を訪ね、実践工房で開発したソフトのプレゼンテーションを行いました。 実際、現地の人々に興味を持たれたソフトもあり、大いに自信をつけた学生もいました。 最初は緊張気味であった学生たちも、アメリカ西海岸のオープンでポジティブな空気に刺激を受け、英会話の得意不得意に関係なく積極的にアピールできるようになっていきました。 最終日には、本プロジェクトとは別に遊びで作った自作のゲームソフトなども披露し、日米の学生・教員入り乱れての対話が展開されました(笑)。 ソフトウェア開発の本場で自作ソフトをアピールするこの武者修行、「百聞は一見にしかず」の言葉どおり、学生にとってはソフト開発の聖地を訪れるようなところがあり、実際に相対してコミュニケーションをとる、非常に刺激的な教育になっていると思います。今後も続けていきたいと考えています。



■企業との連携

 民間企業との連携の面では、現場を経験している企業人でなければできないサポートをしていただいています。「先端スキル開発コース」や「ソフトウェア開発実践コース」において講師やアドバイザとして時間を割いていただき、現場経験者ならではの助言を学生にいただきました。


■ここまでの情報理工実践プログラムの総括はどのようなものになりますか?

 課題としては、企業から人材にどのような待遇で来ていただくのかといった手続き上の問題や、東大のソフトウェア開発実践が過負荷になっていること、ソフトウェア開発実践コースでの3者の連携をもう少し強めたいなどが挙げられますが、今後このプログラムを修了した学生が、次の学生を指導するなど人材の還流も期待できますし、全体としては、当初の目的である、「開発統率力を備え、世界に発信できるソフトウェア創造が出来る人材の育成」ができるプログラムになっていると自負しています。 特にこのプログラムからの起業や外部からの引き合いなどの発展的な成果もでてきており,学生たちの能力を引き出す最高の教育・開発環境となっています。
  今後も改善を重ね、理工実践プログラムを何らかの形で継続していきたいと思っています。
 
  最近巷では、こどもの学力低下や、企業の競争力低下が話題になることが多いのですが、竹内先生のお話を伺っていると、まだまだ日本も捨てたものではないと思えてきます。 教材・人材・設備面から刺激や人との出会いまで最高の環境を提供するこのプロジェクトの一翼を担うここアキバの工房から、世界をあっといわせる面白いものが生み出されるのも夢ではないかもしれません。



【取材日:2008年11月7日(金曜日)】

@東京大学 大学院情報理工学系研究科 竹内研究室

【取材写真】
東京大学情報理工学系 竹内郁雄教授(右) 
アキバテクノクラブ     鈴木事務局長(左) 

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