第2回 東京大学教授 森川博之氏
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産学連携レポート2回目の今回は、多くの方に知られるようになった「ネットワーク」の研究の第一人者であります、東京大学国際・産学共同研究センターの森川博之教授にお話を伺いました。
■現在の総務省プロジェクトに関連して
−総務省の5年間のプロジェクトの概要を教えてください。
いつでも、どこでも、誰でも、簡単にネットワークを利用でき、多様なサービスを利用することができるネットワークは、新たな産業やビジネスを創出し、便利で豊かなライフスタイルを実現するものとして大きな期待が寄せられています。。総務省の研究開発プロジェクトでは、安心・安全な社会の実現、トレーサビリティ・物流分野での活用、活力ある地域情報化の推進、深刻化する環境問題への対応等、単に産業的な側面だけでなく、我が国が抱える種々の社会的課題の解決に向けて幅広く研究開発を進めています。
−総務省の5年間のプロジェクトからどんな成果が得られましたか。また、その成果は一般の生活に入り込んでくる、という観点から考えてどのような段階にあるとお考えでしょうか。
いろいろな成果がありましたが、実際に展開していくというところから見れば、まだファーストステップで、基盤技術ができあがったところです。実用化には時間が掛かりますが、5年以内には実用化に持っていけるプロジェクトがあると考えています。
−実用化できるプロジェクトは具体的にはどんなものでしょう。
KDDI研究所のライフログというプロジェクトがありますが、これは携帯電話の新しいサービスを提案する研究開発であり、実用化に近いと考えています。
また、鹿島建設と私どもの研究室は共同で、加速度センサを建物(構造物)につけて地震をモニタリングするシステムの研究開発をしていますが、この研究も今後具体化が進むものと期待しています。
また森川研究室では、生活行動パターンを室内のセンサから集めるプロジェクトを行っています。人間の生活行動パターンを認識するシステムの構築が目的ですが、今後、高齢者の介護支援システムなどに応用できるのではないかと考えています。
−現在の企業は先進的な研究開発投資に対して、どのようなスタンスをとっているのでしょうか。
企業の研究開発投資については、先が見えているもの、対象となるマーケットが確実なものについては問題ないのですが、見えないものについては先行投資がしづらいように感じています。だからこそ産学連携としての推進体制が必要で、今回のプロジェクトには、国だけでなく企業としてベンダーやキャリアも参加しています。
−今後、このプロジェクトの成果は具体的にどのように展開されていくのでしょうか。
ひとつひとつの成果を確実にセカンドステップに繋げていき、実用できるフェーズまで持っていきたいと思います。
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■秋葉原を拠点にした研究活動全般について
− 秋葉原ダイビルに実験用あるいはPR用のスペースを確保されましたが、どのような効果がありましたか、教えてください。
秋葉原は、街としてのネームバリューとポテンシャルを持っていますし、先進的ユーザーあるいはそのユーザーニーズを熟知している人々がいます。このような秋葉原の魅力によって、多くの見学者や研究者の方々が集まってくることが利点の一つです。、いくつかのプロジェクトでは電気街の方々との実証実験まで行うことができ、期待以上の効果が上がりました。また、秋葉原ダイビルの産学連携フロアに入居することで、他の法人との連携がやりやすくなったという利点もありました。たいへんユニークなスペースだと思います。
−森川研究室には外国人の研究生が大勢いらっしゃいますが将来はユビキタス社会の担い手として期待できますか。
研究室の外国人留学生は秋葉原というブランドにとても興味を持っています。さらに、日本の技術力にもかなりの関心があります。日本の技術力は世界でもトップレベルであること、日本文化へのあこがれがあることも手伝っているかと思います。外国人留学生は最終的には自国に帰る学生が多いですが、少なくとも数年間は日本で働きたいと考えていますね。ベンダやキャリアなど活動できる場は揃っています。工学系研究科においては博士課程のほぼ半分が外国人であるので、きっと将来は社会の実現を推進してくれると思います。
−産学連携という視点から見て、今回のプロジェクトはどのように総括できますか。
秋葉原を実証の場として実験をやられていますがそのことについて一言お願いします。
まだ研究段階のものが多いので、秋葉原というフィールドを活かして、研究レベルとビジネスの実条件とを摺り合わせなければいけないと思っています。実証実験は、ヘビーユーザーの意見を研究開発にフィードバックする良い機会なので、今回の展開の中で大きく位置づけたいと考えています。多様な実証実験の中から、ビジネスとして目が出るものを探していくことができればと考えています。
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■今後のプロジェクトの展開・方向性や展望など
−森川先生の描く「将来のユビキタス社会」の未来像、またアキバの街の未来像について教えてください。
2003年には、「Small Stories in 2008」という2008年の社会を示したビデを作成しました。ここで提示したシナリオは、現実に実現できるほどに技術開発レベルが進展したと考えています。また、2006年には、「アウラ」という2015年のユビキタス社会の一例を示したビデオを作成しました。センサがいたるところに遍在する世界を示しています。先進的なアキバの街こそ、センサやタグをいたるところに埋め込み、訪れるユーザーの行動パターンなどを把握できる場となり得るのではないでしょうか。
研究室では、"プライバシーゼロプロジェクト"と呼んでいるプロジェクトを進めています。個人の行動情報を集めることで、より良い情報やサービスを提供する仕組みを実現したいと考えています。ユーザは個人情報を提供することになりますが、その対価としてより優良なサービスを受けることができます。しかし、これらの社会の実現に向けては、個人情報保護や著作権の問題が大きく絡んできますので、これらを考えながら研究開発を進めていかなければなりません。秋葉原地区を"プライバシーゼロ技術開発特区"とすることもあり得るかもしれませんね。
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将来の社会に大きな期待を寄せながら、レポートさせていただきました。この研究が研究に終わらず、確実に実社会にとけ込んでいけるよう、応援したいものです。
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【取材日:2007年11月27日(火曜日)】
秋葉原クロスフィールド産学交流ゾーン
取材はWEBラジオの収録も併せて行いました
★その音声レポート聴けます★
※撮影場所は秋葉原ダイビル13Fにある東京大学森川研究室にて。
【左から(敬称略)】
宮本貴文 デジタルハリウッド大学 学生
森川博之 東京大学先端科学技術研究センター教授
鈴木敏行 アキバテクノクラブ事務局長
川西 直 東京大学先端科学技術研究センター産学連携研究員
森 治樹 デジタルハリウッド大学 学生
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