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  第8回 産業技術総合研究所 ベンチャー開発センター 次長
      永壽伴章氏            


第8回産学連携レポートは、産業技術総合研究所 ベンチャー開発センターの永壽伴章氏にお話を伺いました。

■ベンチャー開発センターが設立された目的・理念はどのようなものですか?

 産業技術総合研究所は日本最大規模の研究型独立行政法人として、本格研究の成果を社会に還元するというミッションを果たすために、従来の産学官連携推進部門による既存企業との共同研究や知的財産部門による既存企業へのライセンシングに加えて、2002年10月にベンチャー開発センター(当初はベンチャー開発戦略研究センター)を設立して、研究者自らが新規創業を出来る仕組みをスタートさせました。
当時は大学発ベンチャーの機運が高まっていた時期でもありますが、それまでの産総研には、共同研究などでは自分たちの研究成果がどのように還元されたのかが見えにくいというフラストレーションがありました。産総研の技術を研究者自らがベンチャーとして立ち上げるとなれば、その技術移転の成果が売り上げ・雇用創出などが目に見える形で現れるとともに、起業という視点が加わることで、研究者自身の意識も社会への還元を意識するようになるなどの意識改革が期待できます。このため、ベンチャー開発センターでは、産総研をベンチャー創出のプラットフォームとし、そのコアとして「スタートアップ開発戦略タスクフォース」を設置し、産総研のシーズを元にしたベンチャーに対して、創業まで支援を行うこととなりました。



■これまでの産総研ベンチャー開発支援センターの歩みはどのようなものでしたか

 2002年10月に東京・丸の内で「ベンチャー開発戦略研究センター」が発足してから2007年3月までの間、文部科学省科学技術振興調整事業としてベンチャー創出プラットフォーム制度の構築・運営体制の強化をして参りました。2007年5月、丸の内から秋葉原ダイビルに移転し、組織も「ベンチャー開発センター」に改称。前述したタスクフォース制度をもとに支援を進めてきました。
こうしたベンチャー創出のプラットフォームとしての仕組みづくりが評価され、2007年には文部科学省プロジェクトの最終評価が「A」となりました。
また2008年には民間から河野センター長を迎え新体制が発足。2009年10月累積ベンチャーが100社となり、当初掲げていた中期目標が達成されました。新体制のもと、より確率の高いベンチャー創出プラットフォームとなるべく活動中です。



■ベンチャー開発センターの仕組みやその特徴について教えてください

ベンチャー開発センターの最大の特徴は、創業までの仕組みとして「スタートアップ開発戦略タスクフォース」(産総研モデルのプレベンチャー制度)を設置していることでしょう。これはスタートアップアドバイザー(ビジネス経験者)がチームの当事者としてベンチャー立ち上げ当初から参加し、マーケットニーズの把握・ビジネスプランの作成など、経営者の視点で研究者を強力にサポートするものです。これにより、研究者は製品の開発に専念でき、また製品・サービスに求められる技術課題を早期に把握し、課題克服、新たな知財創出に力を注ぐことができます。創業後も、技術移転促進措置として、知的財産支援や研究施設の提供、事業実施の状況のヒヤリングなど、産総研のバックアップを受けることができます。



■具体的には、どのようにベンチャーができあがっていくのですか?

 まず産総研の研究者から創業希望者を募ります。あるいはスタートアップアドバイザーが創業の見込めそうなシーズを発掘する場合もあります。次に創業希望のシーズを精査し、「スタートアップ開発戦略タスクフォース」として採否を決定します。採用されなかった場合でも、産総研としてやる価値のあるものについては、ベンチャー支援室で支援します。
 現在産総研には8名のスタートアップアドバイザーがおり、1つの案件につき、スタートアップアドバイザーが正副2名体制でフォローしています。プレベンチャー期間は2年で、創業後も5年間は産総研のバックアップを受けることができます。
 ベンチャーの対象は内部シーズだけではなく、技術シーズをもって企業からスピンアウトした人を雇用しベンチャー化までの支援を行う【ベンチャー支援任用制度】や、企業も納得した上で事業規模や会社の方針で死蔵せざるを得なかった研究シーズを持った研究者が産総研に雇用される【カーブアウト】などもあります。



■ベンチャー開発センターの成果を挙げるとするとどのようなものがありますか?

定量的には、先にも述べたように累積ベンチャー100社達成が挙げられます。100社のうちタスクフォースによるベンチャー創業は3分の1程度ですが、これはタスクフォース採択にあたり、かなり厳しい精査を踏んでいるためです。
100件の業種別分野の内訳としてはライフサイエンスが3分の1、ITが3分の1、ナノテク・材料分野と環境エネルギー・標準計測などの分野で3分の1を占めています。やはりITとライフサイエンスがベンチャーに向く分野なのだと思います。初期にはライフサイエンスが多かったのですが、最近はIT分野が順調な伸びを示しています。
数値に表れない成果としては研究者の意識の変化があるかと思います。自己の興味だけではなく、社会での最終的な使われ方を意識するような一段高い視点に立って研究がされるようになってきています。
また、昨年1年間は産総研の地域センター毎に産業化シナリオをテーマにセミナーを行うなどの研究者への啓蒙活動を行い、創業者の人材育成にも力を入れています。


■代表的な産総研発のベンチャー企業を教えていただけますか?

○あざらし型癒し系ロボット「パロ」を開発した(株)知能システム。

○新薬の開発時に様々な細胞への効果の検証をスピードアップするシステムを開発した (株)サイトパスファインダー。

○高機能3次元視覚システム(立体形状を測ることのできるシステム)を様々な場面に応用することで好評の(株)アプライドビジョンシステムズ (適用事例として、陸上競技の走り幅跳び計測の際、跳ぶ前と後の砂の形状を測ることで、記録を計測したり、泳いでいるさめの形状を計測、など。)

○SUICAなどの誰でも持っているICカードを利用した広告宣伝や販売促進等の情報処理サービスを行うことで好評のシナジーメディア(株)。


■今後のベンチャー開発センターの課題あるいは展望をお聞かせください。

 ベンチャーを創出する仕組みとしての試行段階はすでに終わったと思います。今後は「量よりも質」すなわち「より成功率の高いベンチャー創出」のプラットフォームづくりと創業後支援をさらに進めていきます。単に産総研のシーズをベンチャーとして、世の中に出すというところから、さらに成功確率の高いものにしていくことが今後の課題です。




■取材を終えて

 今回のインタビューを通じて、産総研の研究成果が世に出されるまでの目配りのきいた仕組みとその熱い思いがよくわかりました。オープンイノベーションのハブとして期待されるベンチャー。今後どのようなベンチャーが産総研から産み出されていくのか楽しみです。
長時間にわたるインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。



取材写真


【取材日:2009年10月22日(木)】

@産学交流ゾーン

【写真】
産業技術総合研究所 ベンチャー開発センター 次長
                      永壽 伴章氏  

(写真をクリックいただくと取材の様子がご覧いただけます)

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