第10回産学連携レポートは、株式会社フジキン CS・マーケティング本部AMG 中村浩一氏にお話を伺いました。
■株式会社フジキンはどんな会社ですか?
1930年に配管機材、機械工具問屋として創業。1953年にバルブメーカーに転身。現在は産業用バルブを主軸とした研究創造開発型メーカーとして、ロケット用バルブ機器を筆頭に半導体製造用超精密バルブ、リニアモーターカー用超低温バルブなど、様々な分野で信頼を得ています。
■産学連携に力をいれているということですが、きっかけは何でしたか。
1980年代、半導体産業で使われているバルブのほとんどが外国製のものでした。緻密さが要求される半導体産業では、学問に裏打ちされた技術が必要であり、日本製バルブを採用してもらうためには外国製のものとの高度な差別化が必要でした。
大学で半導体製造プロセスの研究に使われているバルブ製品のあるものは、例えばホッチキスのように外国製品の商品名が製品名に使われるほどデファクト化が進んでいて、その商品名で製品の発注が行われるため、外国製品が高いシェアを誇っていました。この状況を変えるべく、半導体製造技術研究の第一人者である東北大学の大見忠弘教授の研究室と連携を行い、10年先を見据えた研究に参加したことが、産学連携への第一歩でした。
■東北大学との産学連携はどのようなものでしたか?
半導体工場では、洗浄やガスの噴きつけなどあらゆる場面でバルブが使われています。
半導体業界でもメガビットからギガビットへ、製品の技術革新とともに、製造工程における機器にもさらなる精密さや一層のクリーン化が求められるようになってきました。
このニーズに対応すべく、半導体製造プロセスの第一人者である東北大学大見教授との産学連携が始まりました。大見教授が提唱する『ウルトラクリーンテクノロジー』を採用した"スーパークリーンルーム"は、それまでのクリーンルームより、はるかに清浄な環境を実現するもので、環境汚染源となる要因を徹底的に排除する様々な技術を開発し完成したものです。このウルトラクリーンテクノロジーを代表する技術のひとつがUP(ULTRA PURE)処理です。UP処理は薬品の電気化学作用を利用した研磨とクリーンルーム内で実施する超純水洗浄で、部品表面が限りなくなめらかになり、また汚染源となるパーティクルの付着残留を防ぐことができます。このUP処理への取り組みを初めとして、清浄度世界一を誇るクラス1のウルトラスーパークリーンルームを設置するなど、東北大学との連携から産まれたフジキンの製品・技術は、超清浄度を要求される半導体業界から信頼を得るようになりました。この連携の成功をきっかけに、フジキンでは産学連携による製品開発が半導体以外の分野へも広がっていくようになりました。
■東北大学以外ではどのような分野で産学連携を行っていますか?
神戸大学様とスタティックミキサーの共同開発をしています。
そもそもミキサーは複数の材料を混合するために使う機械です。ほとんどのご家庭にはハンドミキサーをお持ちだと思います。例えばマヨネーズを手作りされる時など苦労された方もあったかと思います。
スタティックミキサーとは、回転する部分がなく、材料を入口から通すだけで完成された製品が出口から出てくる、別名、静止型混合器(インラインミキサー)とも呼ばれています。つまり、サラダ油とお酢と卵黄をスタティックミキサーに入れれば、マヨネーズが出来て出てきます。
従来のスタティックミキサーでは、入口から入った材料は、エレメントと呼ばれる長方形の板を180度ねじった羽によって、分割・転換・反転しながら順次撹拌混合されます。材料が通過する羽が多い方が混合される度合いが高い仕組みになっていますが、これを従来のスタティックミキサーの十分の一以下の長さ、かつ、性能の高いスタティックミキサーを作ろうとしています。
■産学連携の中で、標準化の例はありますか?
先ほど紹介した、東北大学との研究で開発された小型メタルガスケット継手"UPG"がされています。
半導体ウエハの製造時には毒性、爆発性、腐食性のある危険なガスが使われ、それらのガスの供給システムには高い信頼性がもとめられています。フジキンではこれらのガス供給に使われるUPG継手をし、フィルタメーカーやレギュレーターのメーカなどと技術の共有を行っています。
このUPG継手を応用した集積化ガス供給システム(IGS)は、小型化(維持管理費用の高いクリーンルームでは占有面積の縮小が求められている)、メンテナンス性の向上などで高い評価を受けています。
■産学連携に必要なもの〜取材を終えて
フジキンさんが取組まれている産学連携の例は、半導体製造で使われるバルブの話、ミキサーの話どれも面白く、その業界が要求するレベル以上のものをつくりたいという気持ちが伝わってきました。
東北大学の大見教授が次のようなことをおっしゃっています。
「産学連携に必要不可欠な条件は、その分野で『世界一になる』という意思です。産学連携は志の高いところと連携しなければうまくいきません」
フジキンさんはまさにその条件に当てはまる企業だといえます。「世界一」を目指す気持ちが産学連携の成功につながっていることを実感しました。
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