2011/1/13 AICOS2010 vol.5
『新家電イノベーション
〜次世代家電に於ける日本のジレンマ〜』
前田 悟氏
/JVC・ケンウッド・ホールディングス株式会社 執行役員常務
新事業開発センター長
金沢工業大学 虎ノ門大学院 客員教授
<トークセッションモデレーター>
妹尾堅一郎氏/アキバイノベーションカレッジ 校長役
東京大学大特任教授、NPO産学連携推進機構理事長
■現在の3Dテレビは未完成?!
第5回となるAICOSは、3Dテレビを始め次世代家電の様々な課題について、前田氏にわかりやすくご講演いただきました。
つい先日ラスベガスで開催された「CES2011国際家電ショー」というコンシューマ・エレクトロニクス分野で世界最大の見本市を視察された折に、韓国の底力を感じ、日本との差が拡大していることを実感されたそうです。韓国メーカーの展示は、白物からAV、携帯機器まで種類が豊富で、技術的にも無線や薄型が特徴的だったが、日本は、3Dテレビ、ネットテレビ(スマートテレビ)、タブレットで、かつての無線も薄型もない状態だったとのことです。たとえばLGは3Dテレビをシネマの発想で展示し、将来的な位置付けをしっかり設定するなど、様々な機器についてコンセプトを見定めて全方位的に開発を進めている韓国の勢いに押されており、日本は危機感を持たなければいけないと指摘されました。
そして、3Dテレビについては、「3Dテレビ嫌いの様に言われているが、3Dテレビそのものを批判しているわけではなく、現在の3Dテレビの問題点を指摘している」と強調された上で、次のような様々な課題を伺いました。
1.そもそもの開発経緯が価格競争からの脱皮が動機であり、価格設定を高くできる機器の開発を行うということだが、他社ができない開発を行って初めて価格競争からの脱皮ができるのであって、視差を利用するという以前からどこでも有する技術で脱皮できるはずもなく、動機が不純であると指摘されました。
2.眼鏡をかけて見るという商品企画も本質を追求できていない状態であり、未完成の製品と言わざるを得ない中、例え3Dテレビの販売比率が5%に達したといっても、3D機能を利用しているかどうかは別との分析に、会場の参加者も頷かれていました。
3.表面的な情報を流すメディアが3Dテレビの本質的な問題点に触れないことも問題とのことでした。その問題点とは、前田氏の最大の心配事である健康上の問題とのことで、ご自身の体験も含め説得力のあるご指摘となりました。実際に3Dテレビを見た直後は、黒い文字が浮き上がって見えるなど、視覚上の問題から交通事故を引き起こす危険性を実感されたそうです。気分が悪くなるなど子供への影響も含め健康上の問題点を挙げられました。取扱説明書に書けば、メーカーの責任はないという逃げの姿勢ではなく、楽しいものを開発するべきである。
そして現状の3Dテレビは様々な課題があるが、まだ開発途上との認識で、これから大事に育成すべき!という結論となりました。
つぎにスマートテレビについても、ユーザーの視点に立ったテレビ本来の楽しみ方になっているだろうか?と疑問を呈されました。確かに録画したものを見るだけで精一杯の状況の中、オンデマンドでコンテンツを受信しても再生する時間がなかなかないのではないでしょうか。しかもこのオンデマンドのシステムは、開発コストが高いそうですが、たとえコンテンツを見てもテレビ側にお金が入る仕組みではなく、ユーチューブやスカイプにしてもアメリカがイノベートしたものをインプリメント(実装)しているだけというのがいまの家電業界で、もっとやり方があるのではないかというご意見でした。
そして、結果として前田氏は以下の点を挙げられました。
1. 企画力の欠如
2. Followerに慣れていて、自分で考えない
3. 安易な企画
4. 独自性の問題
5. 目的よりも技術(標準化とか)
6. Life Styleが見えていない
最後に、次世代家電における日本の復活には、国家戦略が必要だが、支援の仕方が問題で標準化をつくることが目的になってしまってはいけなくて、デジタル家電の企画力の育成がより大切であり、たとえば、商品開発研究所を設立し、ビジネスまで行う、ということ等を提唱されました。
(写真をクリックいただくとご講演の様子がご覧いただけます)
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