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  2019年度第3回アキバテクノクラブオープンセミナーを開催しました
               


講演の様子

2019/7/25
2019年度第3回アキバテクノクラブオープンセミナー

 
【テーマ】  「MaaSが変える未来の暮らし」
     〜宇都宮のLRT これまでとこれから〜

【講師】  古池 弘隆氏
    /宇都宮大学工学部名誉教授、
     宇都宮共和大学特任教授、
     一般社団法人 県央まちづくり協議会代表理事
    


■ ご講演の背景  

全国初の全線新設となる次世代型路面電車(LRT:Light Rail Transitの略)の建設が宇都宮市で始まった。今回、ご登壇いただいた宇都宮共和大学特任教授の古池弘隆氏は、交通計画、都市・地方計画の専門家であり、このLRT整備に当初より強く関わってきた方である。

宇都宮市におけるLRT構想の発端は1993年。渋滞の深刻化により工業団地へのアクセス改善を求める声が高まったことによるが、同氏はこの前年にあたる1992年に行われた「宇都宮都市圏総合都市交通体系調査(パーソン・トリップ調査)」に関わり、宇都宮市における都市交通の実態及び課題を研究。2001年10月からは、「新交通システム導入基本計画策定調査委員会」の委員長として、宇都宮におけるLRT導入計画を策定し、LRT実現に向けて今日まで尽力されている。

構想から苦節25年、政治経済情勢に翻弄されたが、LRT敷設の合理性と関係者の熱意により、昨年6月に「宇都宮LRT」が着工。宇都宮駅東口停留場から本田技研北門停留場(栃木県芳賀町)までの約15kmは先行区間と位置付けられ、その開業は3年後の2022年3月を予定している。

同氏には、『「MaaSが変える未来の暮らし」〜宇都宮のLRT これまでとこれから〜』と題して、着工に至るまでの苦労話を始め、LRT整備により大きく変貌する交通インフラを契機としたこれからのまちづくりの姿について、存分に語っていただいた

ルート図

参考:「LRT運行ルート」(出典:宇都宮市ホームページ)

*ルート図をクリックすると拡大します

*アンダーバーの文字をクリックするとWebにリンクします


■ 「工業団地への通勤環境の改善」と「コンパクトなまちづくり」にかける期待  

LRT整備の大きな目的は、沿線に立地する工業団地への通勤環境の改善にある。
鬼怒川の東側には、内陸型工業団地として国内最大級の「清原工業団地」や「宇都宮テクノポリス」、ホンダの研究施設等が集積する「芳賀工業団地」が立地するほか、国道4号線バイパスと交差する平出地区には平出工業団地もある。

宇都宮都市圏では長年に亘ってこれら工業団地への交通渋滞が問題となっており、工業団地が拡張するたびに渋滞は深刻化していた。道路が空いていれば、宇都宮駅前からホンダの研究施設まではわずか20分だが、朝晩の通勤時間帯は1時間〜2時間もかかってしまうことがある。

LRTが整備される沿線には、住宅街やニュータウンも集積しているほか、ショッピングセンター、病院、大学等の施設も立地している。

宇都宮市は、「ネットワーク型コンパクトシティ」を将来の都市構造として第5次総合計画に掲げ、少子高齢社会、人口減少時代の到来や、地球環境問題の深刻化、高度成長期に整備した道路、下水道、学校施設などの公共資本ストックの老朽化、さらには、都市の顔である中心市街地の活力の低下などを解決することを目指している。

ネットワーク型コンパクトシティとは、宇都宮市のまち全域に都市拠点や生活・産業・観光などの地域拠点を配置し、拠点内では高齢者が車の運転ができない社会が訪れたとしても移動ができる利便性の高いデマンドタクシー等の地域内交通を整備。

それぞれの拠点を公共交通、バスや鉄道あるいはLRTで結びつけ、公共交通の網をかぶせていく。こうすることにより、誰もが好きな場所に自由に移動できるようにするというものである。

(写真をクリックいただくとご講演の様子がご覧いただけます)

講演の様子

■ 宇都宮LRTの課題  

 沿線住民の様々な期待を背負ってようやく着工にこぎつけた宇都宮LRT。

しかし、宇都宮LRTが抱えるこれからの最も大きな課題は、JR宇都宮駅から東武宇都宮駅附近の中心市街地へと向かう西側区間への延伸をどう実現していくかである。

JR宇都宮駅西側のLRT整備は、当初の計画区間である「桜通り十文字付近」からのさらなる延伸を含めた「大谷観光地付近」までの5つの区間について検討されているが、道路管理者や交通管理者、交通事業者等の関係機関との協議や沿線商店街との意見交換などに取り組みながら、事業化に向けた調査・検討が進められている状況にあり、未だに着工の目処は立っていない。



■ LRT建設を契機に「とちぎ」が大きく変貌

 「25年以上かかったけど、ようやくここまで来た。」と古池氏は言う。線路も何もないところに一からLRTを新設する「日本初のプロジェクト」が3年後には実現する。

しかし、同氏はこれがゴールだとは思っていない。2017年11月、同氏が代表理事を務める「県央まちづくり協議会」が発足。

同協議会が目指すのは、LRT以外の鉄道網(JR日光線や烏山線・東武宇都宮線・真岡鉄道)をも有機的につないだ県内交通ネットワークをつくることであり、それこそがMaaSが目指している新しい地域の公共インフラとなり、宇都宮をはじめこの地域を大きく変貌させることになろう。

現在、会員企業は70社を超え、その活動範囲も県内8市8町に及ぶ。民間企業の連携強化を通じて、また地方公共団体と民間が連携したまちづくりに取り組み、栃木県の将来の発展に積極的に寄与することを目的として活動を推進していくとしている。

宇都宮市は、今年5月にスマートシティモデル事業の「先行モデルプロジェクト(国土交通省)15事業」に、7月には「SDGs未来都市(内閣府)31都市」に選ばれるなど、注目されている。

一歩先んじた宇都宮の挑戦は、全国各地での鉄軌道を最大限に活かした公共交通再編のモデルケースとなるのではないかと強く感じた講演内容であった。

今後も、宇都宮の動きに注目していきたい。


(写真をクリックいただくと講演の様子がご覧いただけます)

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